ごはんの旅人・向笠千恵子の一食一会

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箱根・小田原、清爽街道の旅──小田原編

<<   作成日時 : 2008/09/11 07:54   >>

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 浜邸のある箱根町は、周囲約二十キロの芦ノ湖の南端に位置し、江戸時代には東海道の箱根の関所が置かれていた。だから杉並木の残る旧街道経由で小田原へ出るほうが旅の気分が高まるのだろうが、次の目的地・小田原から大声で呼ばれているような気がして、来たときのバス道を戻り、箱根湯本経由で小田原へ急ぐことにした。かまぼこ、梅干し、和菓子……と小田原は寄りたいところだらけなのだ。急がないと日が暮れてしまう。
 バスが小田原の街に近づくと、かまぼこの匂いがふと鼻をくすぐってきた。風祭という町で、ここから小田原駅前の商店街にかけては、かまぼこ街道と呼びたくなるくらい、かまぼこ屋が多いのだ。かまぼこは、魚のすり身を蒲の穂に巻きつけて焼いたのが起こりといわれ、宮城の笹かまをはじめお国自慢の味が各地にあるが、関東人にとっては何といっても小田原かまぼこが身近である。
 長方形の板にすり身をこんもり塗りつけ、全体が半円形になるように調えて蒸すのがスタンダードな形状だが、全国どこのかまぼこより食感がぷりぷりしているのが小田原かまぼこの特徴。この業界では弾力に富んだ製品を「アシコシが強い」と称賛するが、まさしく小田原かまぼこは日本一アシコシの強い横綱なのである。さあて、今日はどこの店で買おうか。
 しかし、最近のかまぼこは、主原料が冷凍すり身になっていたり、調味料にケミカルなものが使われていたりが多いので、魚の加工品らしい旨みを味わおうとなると、ラベルをじっくり眺めて選ばなければならない。また、エソやグチなどの生魚のすり身を混ぜた本格品となると、値段が三〜四倍にもなる。この日、あの店この店を回った末に選んだかまぼこも、一本が二千円だった。一切れに換算すると……うーん、おいしいかまぼこは、高級な刺身と同じ値段なのだ。
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 かまぼこと並ぶ小田原名物が、梅干しである。
 いい証拠が、駅前商店街でひときわ目立つ「ちんりう」という店。「名物蒲鉾」と「名物梅干」という大きな木の看板を入り口に二つも掲げているのだ。かまぼこが相模湾の魚を原料にして発達したのはわかるが、梅干しはなぜだろう。
 小田原は、富士や箱根からの伏流水が湧くうえ、相模湾からは海風がここちよく吹いてくるし、太陽にも恵まれている。そのため、梅の栽培にぴったりの土地柄なのだ。この地には、杉田という梅干し向きの伝統品種もある。適度な酸味があり、果肉が肉厚で、香りも爽やかである。歌舞伎の仇討ちもので知られる曽我五郎、十郎兄弟ゆかりの曽我という集落には四百年以上もつづいている梅園もあるそうだ。
 大看板に引き寄せられて「ちんりう」へ。すでにかまぼこは買い込み済みなので、梅干しコーナーへ直行する。ガラスケースのなかには、年代物の梅干しから新ものまでずらりずらり。なのに、茶色の梅ばかりで、赤い梅干しはほとんどない。
 そういえば、紀州で聞いたことがあるが、関東では赤じその葉を用いないで、通称を白干しという梅干しが好まれるせいで、首都圏への出荷する梅干しにはしそを使わないそうな。この話は、本当だったのだ。
 曲げ物から袋詰めまで種類豊富な包装を見ているうちに気づいたのだが、東海道の要所だった小田原では梅干しが恰好の土産物だったのだろう。日保ちはいいし、かさばらないし、いざとなれば、道中の非常食にも使える。めでたく持ち帰れば、曽我兄弟の仇討ちの地の梅などと蘊蓄付きで手渡すこともできるわけで、きっと大喜びされた土産だったに違いない。
 そう考えると、かまぼこが名産になった理由もわかる。宿場土産にうってつけだし、旅籠でいっぱいやるときの酒の肴にも好都合だったのではないか。東海道の吉田宿(現・豊橋)でちくわが特産品だったのも同じ理由だろう。
 近代になってからも、小田原は箱根や伊豆という大観光地に至近であり、数多い旅館の朝食メニューとしての需要があった。かまぼこ屋が現代も隆盛なのは当然なわけだし、最近はヘルシーな食べものとしても最注目されている。今後は、もっと原料や添加物に配慮したおいしい製品をつくってもらいたいものだ。
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 梅園のある曽我とともに、小田原にはもう一つ、歌舞伎につながるものがある。市川団十郎家に伝わる歌舞伎十八番「外郎売(ういろううり)」で効用が謳われた薬の「外郎」と、その製法を伝える外郎家が考案したお菓子の「ういろう」である。
 歌舞伎のほうは、当代の団十郎も得意としていて、早口言葉で言う長台詞は客席で聞いているだけでもすかっとする。一部を紹介すると「……一粒舌の上へ載せまして、腹内へ納めますると、イヤどうもいへぬは、胃心肺肝が健やかに成って、薫風咽喉より来り、……」という具合。
 薬の「外郎」も、米粉に砂糖などを混ぜて蒸したお菓子の「ういろう」も、外郎家の「株式会社ういろう」が登録商標をとっていて、同じ店でどちらも製造している。それで、駅前商店街の支店の看板は「ういろう駅前調剤薬局」となっている。名前は薬局だけど、お菓子のほうも売っている。もっちり系の食感のものが大好きなわたしなので、素通りできるはずもなく、この日はこしあん風味のういろうを購入し、丸薬も一袋求めた。
 このあとは、駅前近くの和菓子の「菜の花」へ。この店、オーナーが器や雑貨の目利きでもあり、二階は暮らし回りのしゃれた雑貨店になっている。どら焼き、ふきん、軍手など脈絡なくあれこれ買い込み、抹茶と水まんじゅうで休憩。
 店を出て、駅へ向かうと、駅弁の鰺ずしの東華軒の看板が目に飛び込んできた。──とどのつまり、鰺ずしの折り詰めを抱え、改札を通り、上りホームへ大急ぎとなった。
 と、視界にお城の天守閣が入ってきた。
 そうだった。箱根山を下りてからは食い気にばかり走っていたが、小田原は北条氏が関東支配の拠点とし、徳川幕府も重んじた大城下町。名産食品がひと味磨かれているのもあたり前なのだった。(この項終わり)
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鰺ずしを膝に夕日の相模湾
                 千恵子

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
一句いただき、、、空腹も見えるけど、帰路の車窓からの風景を思いつつの鯵すしの酸味の和らぎ、口福あり?
おいしいかまぼこは高級な刺身と同じ値段、、といううなりにあっ、そうなんだ、、、かまぼこを食べるか、刺身を食べるかと問われれば、さしみだなあ、、と。梅干、外郎と遠い昔を聞かせていただきつつ、モダン向笠の小田原1日の活力に乾杯したい気分。
夏ばて婆さん
2008/09/12 10:13
 こんにちは、向笠さん。
十何年も前に小田原の「ういろう」や「かまぼこ」を見にいたことがありましたが、ガッカリしたのを思いだしました。どうでもいいことですがその時は箱根湯元の見番で新右衛門さんと合流し、飲みすぎて1泊しました。
pythagoreansalad
2008/09/30 00:54

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