ごはんの旅人・向笠千恵子の一食一会

アクセスカウンタ

北前船ゆかりの飯ずし訪ねて小樽まで

<<   作成日時 : 2008/01/24 03:55   >>

トラックバック 0 / コメント 1

 発酵食品はいろいろ取材してきたが飯ずし(いずし)だけは手つかずだった。だが、米に関わる食べものについてまとめているうちに、米と発酵の両方にかかわる「飯ずし」というなれずしが無性に気になってきた。
 手がかりをつかもうと、函館に飛んだのは去年の夏のこと。江戸時代の北前船が本州からなれずしを伝え、飯ずしはその北海道バージョンであり、拠点の一つが函館なのだ。現地に行って、もう一つの本場が小樽ということもわかった。北前船の寄港地の松前・江差から東へ向かえば函館だし、北上すれば小樽へ至る。本州からの人々が進んだルートにのって、発酵食品も伝播していったのである。
 せっかくだから、比較検証してみたい。小樽の飯ずし取材を計画していたところに、こんな話が飛び込んできた。北海道で地域活性化を指導している知人から海産物メーカーを紹介され、話しているうちに所在地は小樽、看板商品が飯ずしだということがわかったのである。
 その会社は堀内水産食品。面談したのは、ご主人に先立たれて家業を継いだという女性オーナーで、肩書は会長。先代の父が近江出身の先祖から受け継いだ郷土味覚を現代の都会の消費者にいかにして売り込むかが緊急テーマという。それで、東京で物産展や食のイベントがあると上京するのである。
 そして新年となった。年末に発表された農水省の“日本の郷土料理百選”には入らなかったものの、飯ずしは北海道を代表する味覚であり、とくに道東出身者はふるさとを離れても正月には飯ずしが欠かせない。旬は冬……今しかない。
画像
画像

 小樽へは千歳空港から札幌経由の快速電車で70分。暖房のきいた車内から降りると、全身がぴしぴしっと冷気に包まれた。空からは小雪。線路は積雪でおおわれている。改札口で堀内水産食品社長の堀内万記子さんが息を白く吐きながら手を振っていた。まだ2回しかお会いしてないが、彼女の会社の製品を取り寄せて何回も食べていたせいか、昔なじみのような気がする。
画像

 小樽といえばガラス、洋菓子、すしが観光客の三大お目当てだが、ここに飯ずしが加われるかどうか……。ともあれ腹ごしらえからだ。「澤の露」という屋号の名物飴屋の角を曲がって坂を上ると、寿司屋ストリートだった。
画像

案内されたのは政寿司本店。本まぐろが自慢の店だが、その味はもちろんのこと、わたしがとりわけ気に入ったのはボタン海老、ホッキ貝、帆立貝、形が八角に角張った白身魚のハッカクといった面々。素材で勝負する小樽の寿司屋でなければ揃えられない味だった。
画像

 食後は、北海道で一番古い手作りアイスクリームという美園のソフトクリームでレトロな甘味を楽しみ、澤の露の飴玉をなめながら、堀内水産食品のある塩谷へ向かった。塩谷は小樽の一駅先の海辺の町で、積丹半島の付け根に位置する。堀内家は元来がにしんの網元だったので、にしんを求めて松前・江差からここに移住してきたのだ。
 飯ずしについて説明しておこう。飯ずしには文字どおりご飯が欠かせない。ご飯に米麹を混ぜたものを用意し、紅鮭、ほっけ、にしんなどの塩漬け魚のそぎ切りと交互に重ねていって、最後に重石をのせる。魚をのせるときに、にんじん、生姜のせん切り、唐辛子の輪切りなどを散らして彩りと味を補う。
 1週間ほどして水が上がってきたら、水をあけてさらに漬け込む。すると、ご飯と麹が発酵して、乳酸菌や麹菌がふんだんのうまみいっぱいの保存食に生まれ変わる。冬場に生野菜を食べられなかった昔の人にとっては、たんぱく質だけでなくビタミンやミネラルまでとれる最高の健康食品でもあった。
 北陸のかぶらずしはご飯を乳酸発酵させて甘酒状にしたもので漬け込むし、秋田のはたはたやにしんのすしには麹を用いる。その点、この飯ずしはご飯と麹の両方を同時に使うのが特徴である。自然のきびしさと向き合ってきた北海道人らしい知恵というべきか、おおらかな風土性というべきか。
 堀内水産食品の飯ずしは、きゅうりの輪切りを入れるのが決まりで、魚は紅鮭、にしん、ほっけなどを種類豊富に用いる。工場に入ると、白衣白帽で全身を包んだ女性たちがせっせと漬け込み中だった。
「家庭用に桶のまま販売できるようにと、小さな桶で漬けることを父が考案したんです」と、万紀子さんは誇らしげ。
「せっかくだから大きな木桶を用いて、トレーサビリティのできる原料を使って、昔どおりの配合による伝統製法の飯ずしを、無添加で復元してみたらどうでしょう……」と、わたし。彼女が目を輝かしていたから、もしかすると実現の日は意外に近いかもしれない。
画像
画像

 その晩はぬか漬けにしんをにんじん、じゃが芋で煮込んだ三平汁、塩漬け鯨を里芋、淡竹、わらび、ふき、にんじんと煮た鯨汁、秋鮭の麹漬けなどを、母上と一緒になってわたしにすすめてくれた。ほくほくのじゃが芋がぬか漬けにしんのうま味を吸い込んだ三平汁も、鯨の海の滋味いっぱいの鯨汁も、しっとりした鮭の麹漬けもお代わりしたいほど。
画像

 ハイライトはにしんの飯ずし。純白のご飯の粒々がにしんの切り身にしなだれかかり、唐辛子の紅とにんじんの朱がよき彩り。桶から出したばかりなので、舌にのせるとシャーベットのようにひやっとして、発酵してとろけたご飯のねっとり感がきわだっていた。冷たさもごちそうのうちなのだ。
 北前船は昆布やにしんを内地へ運んだばかりでなく、それとは逆の道筋で発酵食品を北の大地の各所へ伝えた。そして、北海道の人々は、その味を独自に開花させたのである。  

襟立てて口笛吹いて小樽かな
                  千恵子

テーマ

月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL


コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
私の故郷小樽をようこそ訪ねてくださいました。堀内水産、勿論知ってます。ハタハタの飯ずしも絶品よ!皆さんも是非、小樽の飯ずし、食べてください!
のりちゃん
2008/02/06 21:26

コメントする

ニックネーム
本 文