ごはんの旅人・向笠千恵子の一食一会

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越前冬の旅──永平寺に泊まり、味わう

<<   作成日時 : 2007/11/15 07:38   >>

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 東京・西麻布に曹洞宗大本山永平寺の別院・長谷寺(ちょうこくじ)があり、都心とは思えない静寂さのなかで僧侶たちが修行している。
 住職に話をうかがうと、曹洞宗では開祖・道元が『典座教訓』という本で「勉強のさまたげになるかのように思える日々の食事づくりこそが座禅や読経にひけをとらない立派な修行」と説いているそうだ。
 禅と食事づくりの関係を、わたしは臨済宗の禅道場で実感したことがあるので、今度は曹洞宗の食事を体験したいと願っているのである。
 曹洞宗は臨済宗より戒律が厳しいといわれる。それだけに、初めはかしこまって法話を拝聴していたのだが、さすが別院を預かる住職だけにとても話上手で、リラックスさせ上手。
なんだか高級な落語を聞いているような気分のまま時間が過ぎてしまい、「一粒の米でも大
切にしなさい」という一言だけが最後に頭に残った。そういえば、永平寺のある福井県は昭和31年にコシヒカリを生み出した米どころである。
 初冬、いよいよ越前の大本山へ向かった。宿坊に参籠して、ミニ修行できる1泊体験コースに志願したのだ。
 最寄りの福井駅は駅ビル完成以来、ローカル色がうすれたようで、旅に出た実感がわかな
い。こういうときは郷土名物を食べるに限る。
 目指したのは元祖ソースカツ丼のヨーロッパ軒総本店。小型のトンカツを特製ウスターソースにじゃぽんと浸けて丼飯に乗せただけの料理だが、コシヒカリのご飯、厚からず薄からずのカツ、そしてソースの染み加減のよさと、みごとに三拍子揃っているのだ。ましてこれから禅修行だから、俗っぽい味がしみじみおいしく、いとおしく思えた。

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 路線バスで永平寺へ。山門の前に立つと市内より2度は間違いなく寒い。夜間の冷え込みが心配になったが、入山したとたん、持参の携帯カイロを貼り付けることすら忘れてしまった。予定がびっしりなのだ。
 七堂伽藍が立ち並ぶなかで、一般参籠者が泊まるのは大庫院(だいくいん)。ふつうの寺でいう庫裡(くり)にあたるが、大本山ともなると大がかりで、地上四階地下一階、延べ面積七百五十坪と大型旅館顔負けの規模である。

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 大庫院には厨房、来客を接待する瑞雲閣、会計業務や修理関係を担う部門があり、参籠者の部屋は二階。頭を青々と剃りあげた青年僧に案内されて部屋の戸を繰ると、すでに布団が敷かれていた。
 サービスのよさに驚くのは早合点だった。敷き布団も掛け布団も1枚だけだし、その1枚の上半分に覆い重ねるように敷いたり掛けたりしてあるので、実際には1人が布団半枚分の上で寝る勘定になる。この日は女性10人が同室だったので、布団は部屋いっぱいに長々と伸びていた。こういう布団で寝るのも修行のうちなのである。
 心を落ち着かせつつ、浴室へ向かう。掃除の行き届いた清潔なお風呂で、なまじな温泉旅館よりいい感じ。だが、入浴も修行だからひたすら沈黙のまま湯船に浸かる。寡黙なわたしには苦痛ではないが、お喋り好きの方にはきびしいひとときだろう。

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 17時半からは「薬石」と呼ぶ夕食。日々の生活のすべてが修行とする禅宗では、食事を調えることも修行だし、食事をいただくことも修行だから、ここでも沈黙を守らなければならない。
 黙ってはいても、わたしの目はくるくる動いてしまう。一般参籠者の献立は僧たちより少し豪華なようで、箱膳には汁、白飯、煮物のほかにごま豆腐、揚げ昆布が付いていた。
 ごま豆腐は全山の調理を取り仕切る典座(てんぞ)・三好良久老師(ろうし)の自慢の味。鍋でていねいに煎って、すり鉢でとろとろになるまであたったごまが味の決め手とか。そして、すり鉢であたる作業は、新人僧の格好の修行なのだ。
 ごま豆腐は5〜6センチ角で、朱塗りの椀にぷるんと収まった様子は存在感ずっしり。赤い練り味噌がつやつやとかかり、見るからに清らかでおいしそうだ。
 一方、揚げ昆布は「吉祥昆布」と名付けられていて、昆布に切り目を入れて蛇腹状に編みあげて油で揚げたもの。朱塗りの小皿の上でてらてらと輝き、すがすがしくも美しい。
 さあ、箸をとろう。だが、まだ食べてはいけない。
 三度三度の食事の前には、五観の偈(げ)という五つの短い経を唱え、食事に感謝するのが道元禅師以来の決まりなのである。(この項続く)

雪催いたくあん噛む音僧堂に
                  千恵子

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
永平寺に泊まり、味わうはお相伴させていただきたいものですね。
食あって健康の実践者、向笠さんですが、食べ過ぎない?と伺いたくもなります。
紫陽花
2008/06/18 16:54

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